「ふぁ、ファンスィィ!」
 俺は思わず思ったまんまを口に出しちゃったよね。あ、『ファンスィィ』ってのは『ファンシー』をネイティブに発音したものね。
 もうマジでファンシー。淡~い水色の表紙に、極端にデフォルト……じゃないや、デフォルメされたニコニコ顔のクマのキャラクターがプリントされた、男子が持ってたら確実におかしなヤツ呼ばわりされるレベルにファンシーなノート。でも……。

 そんなファンシーなノートの、本来なら『国語』とか『数学』とか書く部分にさ、どでかい赤文字で……

『呪』

 って書いてあるんだよ!
「やっぱりぜんぜんファンスィィじゃないよ! 呪われてるじゃないか!」
「はぁ? アホ? だから何度も呪われたって言ってるでしょ」
 巫女子が冷静冷徹冷血な表情で俺を俺を見てくる。その瞳は例えるなら、ザ・アイス! いや、ジ・アイス!
「い、いやいや、ノートの柄と書かれた文字のギャップにちょっとビックリしただけで、べつにわかってないワケじゃないんだ、うん」
「なに? 高校生にもなって『バンゲリング・ベア』のノートなんか持ってて子供みたいって言いたいの? アホなの? 今OLさんたちの間でも流行ってるんだから。私が持ってても恥ずかしくないんだからね!」
「いやいやいや、なにも言ってないよ。べつに恥ずかしいとか思ってないから」
 ていうかそのクマ、『バンゲリング・ベア』っていうのかよ。見た目のわりには妙に厳つい名前なんだな。
「本当でしょうね? 絶対に、観音様に誓ってバカにしてないって言えるんでしょうね? ウソついたらハリハリ鍋食わすわよ!」
「え? あ、う、うん……」
 ハリハリ鍋なら大歓迎じゃねぇか、というツッコミをグッ! と堪える。正論を指摘しても、結局ガタガタと屁理屈をコネるに決まってるからね。触らぬ観音様に祟りなし、だ。
「……まぁいいわ。とにかく、このノートに書いてあるから読んでみて。靴岡くんに見せようと思って頑張って書いてきたんだから」
「それじゃ失礼して……お、巫女子ちゃんて字が上手いんだねぇ」
「私の字が上手かろうが下手だろうが、あなたには関係ないでしょ。あと下の名前で呼ばないでくれる? べつに親しくもないんだから」
「ご、ごめっ……って、さすがにそれはヒドくないか? こちとらお願いされてる側なんだけど? 呼び方くらい好きにさせてくれよ」
「チッ、うぜぇなコイツ。権力を盾にヤリたい放題、私を手込めにしようってワケ?」
「い、いや、そんなことは一言も言ってないだろ。俺はただ、名前の呼び方を――」
「ああもう、わかったわよ! 『巫女子ちゃん』だろうが『ゴミ虫』だろうが、好きに呼べばいいわ! ただし、名前だけよ。心まで屈したワケじゃないからね!」
「な、なにを言ってるんだ……下の名前を呼ぶだけで大袈裟すぎるだろ――」
「いいから! さっさと読んでよ! 話が進まないじゃない!」
「わ、わかった。読むよ……」
 誰のせいで進まないんだよ、というツッコミをググッ! と堪え(二度目だよね)、俺はノートをパラペラと開いた。
「なになに、『憎い、憎い、憎い! 憎らしい! 憎憎しい!』とな……」