穏やかな春の陽射しが射し込む二年あざみ組の教室……いや、焼けるような夏の陽射しが射し込む……いや違うな。
 六月って春か? 夏? え、梅雨? でも今日は晴れてるんだよね。今年は空梅雨だか何だかであんまり雨が降らなくてさ。晴れた六月の陽射しは何と表現したらよいのですかね?
 ……とにかく射し込んでるんですよ、陽射しが。昼休みの教室にね。
 教室内には、学食や中庭や屋上に出なかった生徒が十数人……え、正確には何人かって? そんなことはどうでもいいだろ! え、ダメ? ちゃんと数えろ?
 はいはい、わかりましたよ、少々お待ちくださいね。えーと、一、二、三……。
 ――はい出ました! 合計十一人です! 我が二年あざみ組は三十九人学級だから、三十九分の十一が教室に残っていることになりますね。
 ……は? 約分しろって? えーと、えーと……っておい! 約分できねぇよ! 三十九分の十一は三十九分の十一だろ!
 なに? じゃあせめて男女比を教えろだって? 男が五人、女が六人だよ! 何でそんなことが知りたいんだよボケ!

 とにかく!
 教室には俺を含めて十一人の生徒がいて、昼休みも半ばなものだから、みんな昼飯なんてとっくに食べ終わってて、それぞれ仲のいいグループに分かれてお喋りやあやとりを楽しんでいるワケ。
 で、そんな中でたった一人、どのグループにも属していない生徒がいるんだよね。

 俺だよ!

 俺こと靴岡 巡(くつおか めぐる)は、窓際最後列の自分の机に突っ伏して昼寝(のフリ)としゃれ込んでいるんですよ!
 と、友達がいないワケじゃねぇよボケ! いるよ! 中学の頃からの親友、早遅川 砂太郎(はやおそかわ すなたろう)ってヤツが同じクラスに。
 ただ生憎、砂太郎は今日は学校を欠席しているんだ。ん? 他の友達? いないよ、俺は友人は選ぶタイプだからね。あっちこっちフラフラする八方美人じゃないから。厳選した質の高い人間と狭く深いお付き合いをさせてもらってますので。ええ、クラスに……というか学校に……というかこの世の中に、友人と呼べる人間は砂太郎のみです。
 だから砂太郎が休んだ日は、孤独なロンリーガイに成り下がっちゃうワケ。
 しかも厄介なことに、砂太郎ってヤツはさ、三度の飯よりテレビゲームより、もちろん勉学よりも寝ることが好きなヤツで、どんなに大事な予定があっても眠かったら寝ちゃうんだよね。たぶん目の前に全裸のお姉さんがいても、眠いときのヤツなら寝るだろうね。お姉さんほっぱらかして。
 その上とんでもなく睡眠時間が長いんだ。「眠くなったら寝て、自然に目が覚めたら起きる」がモットーらしいからね。うん、一日に十六時間は寝てるんじゃないかな。逆だっつー話だよね、寝てる時間と起きてる時間の比率がさ。
 そんなだから当然、砂太郎には「毎日学校に行かなきゃ」なんて普通の学生にはあって然るべきの思考がないワケで。学校なんて平気で休んじゃうのよ。
 ヤツが登校してくる確率は、そうだな、五割……いや、もっと低いね、約四割くらい。イチロー級って言えばわかりやすいかな。
 だから必然的に、俺は六割の確率でこうして孤独な昼休みを過ごすハメになるワケ。
 正直、もう慣れたよ。寂しい、とか辛い、なんて感情はとっくのとうに滅したよ。御仏の如き心で、アーメン、ラーメン、ジャージャーメンでございます。
 ……んじゃま、そういうワケで寝ましょ、寝ましょ、そうしましょ! 寝たフリじゃなくて本気で寝ましょうね。目が覚めたら机がヨダレでベットリってくらいに熟睡しちゃうからな!

 …………。

 ほうら、意識が薄れてきた。もう逝きますよ、夢の世界へ。あと五秒、四、三、二、一、チュドーン!

 …………。

「――ちょっと! 靴岡くん! 靴岡 巡くん! いるのいないのどっちなの!?」
「はうる!」
 二秒だぞ、二秒! 俺は意識を失ってから二秒後に、俺を呼ぶキンキンと甲高い女の声で覚醒した。
 いや、本当に二秒後かどうかは知りませんよ。ええ、意識がなかったワケですから。正確には何秒後か何分後かはわかりませんけど、けどまだ昼休みですし。クラスメートの立ち位置なんかも寝る前と変わってませんし。まぁまず二秒くらいしか経ってませんって!
「だ、誰だ! 俺の名前を呼ぶヤツは!?」
 俺は上体を起こし、ダンディズム溢れる声を出しながら教室をぐるりんちょと見回した。