「へぇ、そうなんだ。それじゃ頑張って、よろしく」
「な、なんでそんな他人事なんだよ。巫女子ちゃんに呪いをかけたヤツと対峙するんだから、巫女子ちゃんの協力が必要なんだけど」
「げッ、マジ? ダッルぅ。ていうかアレよ、もう私の近くにいないわよ。アイツら、呪いを掛け終わったらさっさとどこかへ消えちゃうんだから」
「いやいる! 昨日の今日なんだ。絶対にまだ近くにいる! ちゃんと呪いにかかっているかどうか、こっそり家まで見に来るはずだ!」
「そういうものなの? さすがはオカルト研究会ね。私、呪われ慣れてるけど、呪ってくるヤツらについて前向きに勉強とかしたことがないから知らなかったわ」
「ふふふ、まぁウチらの業界内では、これくらいは常識だからね」
 ……いや、知らないけどね。口から出任せなんだけれども。
「というワケで今日、巫女子ちゃんのお宅におジャマしちゃってもいいかな? いいですともー!」
「え~ウチに来るの、マジで最悪なんですけど。お母さんに勘違いされそうでマジイヤ」
「あー、まぁ普通に考えればまだ早いかもしれないけどさ、他に方法がないんだ。お母さんにはちゃんと挨拶するから」
「早いって何が早いのよ! あんたがウチに来るのに早いも遅いもないの! 普通に考えれば一生ありえない話なのよキエー! アッポォ! アップゥ!」
「あ、痛い、イタタタタッ! 冗談だよ冗談!」
 思わず怯んじゃったよね。だって巫女子ったら、何かに呪われたかのように俺の首筋にチョップを浴びせてくるんだもの。まぁ照れてるんだろうけどさ、うん、照れてる照れてる照れ照れ照れヒュー!
「た、ただし、巫女子ちゃんの家に行くってのは冗談ではないよ。そうしないことには呪いは解けないんだからね」
「……わかったわよ。来ればいいじゃない、来れば。ただし、そこまでして解決できなかったときは……あなたに待っているのは、死、だからね」
「えっ? お、俺、殺されるの!? どうして!?」
「我が家は地獄の門前町。ウチに男子が来るということは、そういうことなのじゃあぁぁッ!」
「ひぃぃぃぃっ!?」
 巫女子、突如豹変したよね、歌舞伎役者みたいな喋り方になっちゃって。ビックリして「ひぃぃぃぃっ!?」って言っちゃったよね。
「靴岡 巡よ。そなたに死ぬ覚悟はあるのかえ?」
「い、いや、ないよ。どうして俺がそんなリスクを背負わなきゃいけないんだよ。俺はお願いされてる立場だって――」
「またそれかお主! この豚! 己は権力の豚だ! 恥を知れこの豚! 貴様はオガ屑にまみれてブヒブヒ鳴いていればいいんだこのアホ!」
「ぐえぇぇぇっ! 死ヌ、死ヌぅぅぅっ!」
 マジで死ぬ! お宅訪問する前に死んじゃう! 巫女子が目を血走らせながら、俺の首を両手でギュウギュウと締め付けてくるんだから。もう涙ちょちょ切れて口から泡吹いちゃってるのが自分でもわかるんだよ。
「――はッ!? 腕が勝手に……ごめんなさい。でもそういうことだから、本当に覚悟して、真剣にやってよね」
 巫女子が腕を離してくれたのは、失禁一歩手前のところだったね。危なかったよマジで。教室でお漏らしするくらいなら、本当に死んだほうがマシだよ。
「はぁ、はぁ。わ、わかった。死ぬ気でやるから……」
 マジでおかしい、理不尽だよ。俺になんのメリットもないじゃん……って思ったから、俺はドキドキしながら聞いたんだ。ドキドキっていうのはアレね。恐怖によるものが八割ね。あとの二割? それはアレですよ。なんかちょっと嬉しい、っていうか興奮してる感じ? なんだか目覚めちゃったみたいでさ。まぁそれは置いておこうよ。とにかくイヤな気持ち百パーセントではなかったってこと。
「あのさ……失敗したら死って言うけど、逆に成功した場合はどうなのかな? なにかお礼とかってあるの?」
「お礼って、困ったときはお互い様でしょ。靴岡くんに困ったことがあったときは私が相談に乗る、それでいいじゃない」
「え、そういう感じなんだ……お金とか体とか、そういうわかりやすいお礼はないんだね……」
「あるワケないでしょ! 赤の他人ならいざ知らず、私たち、同級生なのよ? 仲間なのよ?」
「いや、同級生ったって、さっきまで存在すら知らなかったし、ほぼ赤の他人だと思うけど……」
「ケチくさい! 度量が狭い! だからモテない!」
「う、うるさいな。なんで俺がモテないって知ってるんだよ。ていうかけっこうモテてるし。ラブレターだって――」
「シャラップ! そういうワケだからよろしく! 暗くなってからじゃないと出ないと思うから、夜の八時にウチまで来てね!」
「あ、ちょ、ちょっと待ってくれよ」
 スタコラサッサのホイサッサと教室を出て行こうとする巫女子を慌てて呼び止めたよね。いや、べつに名残惜しい、もっと話していたいってワケじゃないよ。
「なによ? まだなにか用なの?」
 自分から押しかけてきておいて「なにか用?」もクソもあるか! ってな。まぁ言わないけどさ。
「用っていうか……俺、巫女子ちゃんの家を知らないんだけど……」
「キエェェェッ! オカルト研究会ならそれくらい分かれやぁぁッ! なんでイチから説明せんといかんのじゃぁぁぁッ!」
「ひぃ! ご、ごめんなさいっ!」
 な、なんでこの子はこんなに情緒が安定しないんだよぉ。頭ん中が分裂してるんですかぁ!?
「ケータイ出して。あとでメールで住所送るから」
「え、う、うん……」
 言われるがままにケータイを取り出して、巫女子にメアドを伝えたよ。うん、断る理由はないからね。
「それじゃまた夜に。あ、用もないのにメールとかしてこないでね。面倒くさいから」
 サラっとヒドイことを言って、巫女子は教室を出て行ったんだな。
 でも俺は傷ついたりしないよ。わかってるから。何度も何度も自分に言い聞かせてるから……。

 巫女子は照れてるだけだって!!

 そう思わないと……悲しくなるから……。
 それに、うん、実際のところ、そんなにブルーな気分ってワケでもないんだ。
 なんだろう、不思議だよね。自分のケータイに同級生の女子、しかも可愛いランキングベストテンに入るレベルの子のアドレスが入ってるなんてさ。「ノホーゥ」なんて歌いながら小躍りしたくなっちゃう気分だよ。
 ふふ、俺ってば、感情が抜け落ちている欠陥人間だと思ってたけどね。巫女子との出逢いが、俺の心の奥底に眠る当たり前の人間らしさをほんの少しだけ呼び覚ましてくれたのかもしれないな。
 うふ、ふふふふふ。